



変形性関節症や関節リウマチなどの病気によって、関節の著しい変形や強い痛みなどを生じ、日常生活にも支障が出るようになると、保存的治療では十分に症状を緩和することができないことも多く、そのような場合であっても、症状が合併する膝半月板損傷や股関節唇損傷由来と判断できれば、関節鏡手術をまず検討し、若年で活動性の高い方の場合には、骨切り手術の適応になることもありますが、やはり関節全体に及ぶ進行した関節症や、高齢者の関節症では、効果の確実性などの点から人工関節置換手術や人工骨頭挿入手術を選択します。
現在使用可能な人工関節としては、膝や股関節をはじめとして、肩、肘、指、足関節の人工関節がありますが、術後の症状や機能、耐用年数の問題などから、膝と股関節に比べると、他の部位の人工関節手術の頻度は少なくなっています。
人工関節置換手術は、経過の長い関節症や、進行あるいは重症化した関節症であっても、痛みを取り除く効果が比較的高く、骨切り手術などに比べると術後の安静期間も短くできるという点で優れた手術と言えますが、感染症や血栓症など、重大な合併症を生じる危険性もあるため、安易に手術を行うことは避け、手術の限界や合併症についても担当医から十分な説明を受けた上で、手術を行うかどうかを判断することがとても重要です。
人工関節は、一旦体内に設置すれば二度と入れ替えが要らないというものでなく、長期間の使用で緩みや破損、磨耗などを生じれば、再手術を行って新しい人工関節に入れ替えることもあります。この点で若い方や活動性の高い方では特に注意が必要で、そうでない場合でも、術後には定期的に病院を受診し、関節の機能や人工関節の具合などをチェックして、不具合が見つかった場合には早期に対応できるようにしておかなくてはなりません。
膝は人工関節置換手術が最も多く行われている関節で、2009年度わが国で行われた人工膝関節置換手術は7万件近くにのぼるとされてます。主に変形性膝関節症と関節リウマチを対象疾患としており、高齢化社会の影響もあって、手術数は年々増加傾向を示しています。
手術の基本的な考え方としては、大腿骨、脛骨および膝蓋骨の病的部位を切除し、欠損した組織を人工物で補うというものですが、関節全体のバランスなどを考慮しながら、人工関節を正しく設置することが必要で、広く普及した手術であると同時に、高い技術が必要な手術とも言えます。
膝全体に病変が及んでいる場合に行う、人工関節全置換手術と、膝の一部を人工関節に置き換える、人工関節部分(単顆(たんか))置換手術の2通りがあります。
いずれも痛みを取り除く効果が高く、術後早期から歩行も可能となりますが、人工関節全置換手術では術前O脚やX脚になっていた下肢の変形が矯正されて、「脚がまっすぐになる」のが大きな利点です。また人工関節部分(単顆)置換手術は、全置換手術に比べると侵襲を少なくできる分、術後の痛みが少なく、より高いレベルで筋力や可動域を獲得できる可能性があるのが長所です。但し、部分(単顆)置換手術の適応となる状態はある程度限られているので、術前の診断を慎重に行う必要があります。
一方人工膝関節置換手術には、感染や血栓などの合併症の他に、関節可動域(関節の曲げ伸ばし可能な角度のこと)が十分に改善しないなどの問題もあり、また術後も正座や跪(ひざまず)き動作を制限する必要があるなど、注意する点もあるので、術前にこれらに対するしっかりとした理解が必要です。
当院での人工膝関節手術に対する考え方
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股関節のうち、大腿骨側のみに人工物を挿入する手術を人工骨頭挿入手術、大腿骨側だけでなく、骨盤(寛骨臼)側にも人工関節を設置する手術を人工関節全置換手術と呼びます。
股関節の人工骨頭手術が最も多く行われるのは、高齢者の大腿骨骨折で、変形性股関節症や関節リウマチでは、一般に人工関節全置換手術が行われています。
大腿骨頭壊死症では、病変が大腿骨側に限局しているので、人工骨頭挿入手術が行われることもありますが、手術後長期間経過すると、徐々に骨盤側のトラブルを生じてくることもあるので、若年者の場合にはむしろ人工股関節全置換手術を選択することも少なくありません。
2009年度、わが国で4万件以上の人工股関節全置換手術が行われ、膝同様に広く普及した手術と言えます。
疼痛を緩和する効果に優れ、術後早期に歩行が可能になるなどがこの手術の長所で、術前下肢の長さに差があった場合にも、ある程度下肢の長さを揃えることが可能です。
一方、感染や血栓症などの合併症の他にも、関節脱臼を生じることもありますので、手術の長所と短所について担当医から十分な説明を受けた上で、手術の是非について慎重に判断することが必要です。
当院での人工股関節手術に対する考え方
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肩や肘は荷重関節でないため、人工関節や人工骨頭を必要とするほどの進行した関節症の頻度は少ないと言えますが、高齢者で転倒した際に生じる上腕骨の骨折や変形性肩関節症に対しては肩の人工骨頭挿入手術を行うことがあります。
人工骨頭で十分な効果が得られ、また荷重関節でない分、長期間の安定した術後機能が得られることが期待できるので、膝や股関節と異なり、肩の人工関節全置換手術を行うことはまれです。
但し、関節リウマチにおいては、肩甲骨側の骨軟骨異常が著しいなどの理由から、人工肩関節全置換手術が選択される機会が比較的多くなっています。
肘については、人工関節手術を必要とする原因のほとんどが、関節リウマチです。変形性肘関節症においても人工関節手術を行うことがありますが、頻度は比較的少ないといえます。肘の人工骨頭は肘周囲骨折の一部に実施されるとどまり、日常的に行われるものではありません。
肩や肘においても、感染など重要な合併症を併発することがあり、その他にも肩や肘の関節可動域が期待したほど改善しないこともあるので、やはり手術の限界や短所などについて、術前に十分な説明を受けることが大切です。
当院での人工肩・肘関節手術に対する考え方
※「less invasiveな手段」とは、少しでも侵襲を少なくしようという「心がけ」のようなもので、広く認められた定義はありません。 |
主に人工膝関節置換手術および人工股関節置換手術において、手術の際の皮膚の切開や筋肉などの組織への侵襲を最小にして、術後の痛みを少なくし、より早くより高い機能を獲得しようとする手術が最小侵襲手術(MIS)で、当院でも積極的に取り入れるようにしています。
もちろん人工関節手術だけでなく、あらゆる手術において、侵襲をより少なくする工夫が行われており、広い意味ではそのような手術もMISと言ってよいかもしれません。
一般に膝や股関節の人工関節手術の場合、皮膚の切開が10cm以下のものをMISと呼ぶようです。皮膚の切開だけでなく、筋肉や腱、骨の切開や切除もできるだけ少なくし、切開しない組織についても、極力愛護的に取り扱うようにします。
但し、MIS手術の長所については、まだ十分にコンセンサスが得られているとも言えず、MISの効果に対して懐疑的な意見をもつ方もたくさんおられます。
また、MISには短所もあります。皮膚や筋肉などへの切開が小さいため、手術野が見えにくく、手術がやりにくくなってしまった結果、人工関節が正しく設置されなかったり、皮膚に余分なストレスをかけて、かえって皮膚の損傷や感染症のリスクを高めることがあると報告されています。
そのため、MIS手術には熟練したスタッフが必要であり、またMISにこだわって、かえって不良な手術になることのないよう、状況によっては速やかに従来法に変更するなどの柔軟な姿勢も重要です。
どの部位であれ、人工関節置換手術後はできるだけ長く、しかも快適に関節の機能が維持されることが最も大切で、そのためにはより正確な手術が求められることは言うまでもありません。
一方で手術の正確さを損なわない範囲で、侵襲をより少なくすることにも、手術を受ける方々には一定のメリットがあると信じ、MIS手術を可能な限り取り入れたいというのが、当院の考え方です。
